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- 832 :雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ :2006/06/22(木) 21:55:32 ID:OjzKT0PI0
- 友人の話。
彼の育った山村には、一風変わった神社があった。
一見ごく小さな普通の社なのだが、おかしな言い伝えがあるのだと。
「御犬様が境内を散策される時、側に近よってはならない」
御犬様が一体どんな犬であるのかは、伝えられてはいないそうだが。
彼は小学生に入ったばかりの頃に、御犬様を見たことがあるという。
その日、いつものように社に遊びに行くと、大きな黒い犬が地面を嗅ぎ回っている
のが遠目に見えた。
特別な犬だとは思わず近づいて行ったのだが、参道の途中で足が止まってしまう。
面を上げた犬の両目は、普通の犬の倍ほどもあったのだ。
あぁ、さてはこれが御犬様なんだな。
なぜかそう思えて、その場で足を返して帰ったのだという。
他にも御犬様を見た者は、何人かいたらしい。
人によって、その姿は少しずつ違っていた。
ある者は前足が異様に大きかったと言い、また別の者は尻尾が身体と同じくらい
あったと言う。どれもどこかしら真っ当な姿ではない。
しかし目撃者たちは皆、自分が見たものは御犬様に違いないと信じていたそうだ。
時たま里帰りした折に、親戚の子供達が“神社に出る奇形の犬”の話をしている
ことがある。御犬様、いまだ御健在のようだね。そう言って彼は笑っていた。