甘い匂い

88 名前:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ [sage] 投稿日:04/03/27 22:17
友人の話。

春山に一人で分け入っていた時のこと。
早朝まだ暗いうちにテントをたたみ、意気揚々と歩き出したという。
下りの斜面で濃霧がかかり、乳白色の帳に包まれた。

足元を確認しながら歩いていた彼は、ふとあたりの様子に違和感を覚えた。
加えて何か甘い匂いがした。どこかで嗅いだような匂い。
顔を上げてみると、いつの間にか視界が緑色に染まっている。
彼の周囲には、淡い緑色の霧が渦巻いていた。

ギョッとしたという。緑の霧など聞いたこともない。
慌てて足を速めると、五分ほどで霧を抜けた。
振り向くと、緑色のガスが斜面に沿ってゆっくりと上っていくところだった。

昼時、食料を出して彼は思わず顔をしかめた。
ザックの中の食料がすべて、青緑色のカビで侵されていたのだ。
朝には何ともなかったはずの食料が、とても食べられるような状態ではなかった。
甘ったるい腐敗臭が、ザックの中から立ち上っていた。
その時初めて、霧の中で嗅いだ匂いに思い至ったという。

今のところ彼の身体は、どこも具合が悪くなっていないそうだ。


 

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